日本橋の上に橋を覆うように架かる首都高。この高速道路を地下に通して日本橋川に空を取り戻そうという議論が活発化しています。賛成派はその経済効果を主張し、反対派は無駄な公共投資であると主張しています。
日本橋は、江戸幕府開府の1603年に架けられ、江戸から全国へ続く五街道の起点として位置づけられました。すべての道は日本橋に通じたわけです。日本橋周辺は江戸商いの中心として栄え、日本橋はいわば江戸商いの象徴でもありました。
その日本橋に高架の高速道路が架けられたのが、東京オリンピック前年の1963年。オリンピックを控えた東京の交通網整備の一環として行われました。当時の事情として、土地取得の困難から日本橋川の上に高速道路を建設することが早道であり、地下に埋めることよりも安価で済んだことがあげられます。オリンピックが日本橋のシンボル維持より優先されたわけです。
日本橋に空を取り戻すことは、長く日本橋周辺の悲願でした。2005年に小泉首相が、「日本橋を世界で最も魅力ある場所にして欲しい」という指示を受け、首都高の地下化の議論が起こることになりました。
首都高の地下化に関し、賛成派の舵を取るのは、小泉首相の意を受けて構成された有識者の集まり「日本橋川に空を取り戻す会(日本橋みち会議)」。経団連前会長の奥田氏など4名で構成されるメンバーは、首都高の地下化に伴う総工費が5000億円前後になるのに対して、周辺地価の上昇や不動産価値の上昇、観光客の増加などで得られる経済効果は兆円単位だと主張しています。さらに、いずれ老朽化で造りかえることを考えれば工費は無駄ではなくなるとしています。
しかし、いろいろと疑問が浮上します。まず、小泉首相の存在です。小泉政権下では、無駄な公共事業費を大幅に削減し、多くの高速道路が建設中止の状態になっています。これ自体、大変素晴らしい政策ですし、私は小泉政権の偉大なる成果だと評価しています。ですが、この日本橋の問題との整合性が疑問なのです。建設中止になった高速道路は無駄で日本橋の高速を地下化するのは無駄じゃないと言い切れるのでしょうか。このあたり、合理化を推進してきた小泉首相らしからぬ発言であると言わざるをえません。
経済効果を考えれば無駄ではないだろうという意見もあるでしょうが、この経済効果というものにも大きな疑問があります。世の中には経済効果だとか波及効果だとかを予測・試算することを仕事としている会社がたくさんありますが(かくいう私のいた会社も他の部所ではそんな計算ばかりしていました)、本当にそんな効果があるのかかなり疑問なことろです。予測で計算するなら、その予測に基づいて結果がどうであったか計算して欲しいところです。経済とは生き物である人間の営みであり、計算どおりいくとは限らないのです。都合の良い数値ばかり並べて計算することも可能なのです。でも仮に、「日本橋川に空を取り戻す会(日本橋みち会議)」の試算に基づく経済効果があったと仮定しましょう。この経済効果の恩恵を受けるのは誰なのでしょうか。当然、一次的な効果の恩恵を受けるのは日本橋周辺なわけです。地下化の事業にお金を出すのは全国の納税者です。なぜ日本橋は特別扱いされるのでしょうか。
日本橋は日本の顔だからしょうがないという意見もあるかもしれません。しかし、本当に日本橋は日本の顔ですか?富士山はどうなるんですか?日本各地の景勝地や名所とどう違うのでしょうか。東京にも、新東京タワーの建設で窮地に立たされるであろう東京タワーがあるし、皇居もあります。日本橋を特別扱いして良いのでしょうか。
私は日本橋の街をよく歩きますし、とても好きな街です。日本橋川に首都高が架かっていることで、日本橋川以北と以南が分断されているように感じ、もし首都高がなかったら街が視覚的に一体化してもっと良いのになと何度も思ったことがあります。地下化できるならした方が良いと思っています。ですが、財源が全国国民の税金である以上、賛成できる話ではありません。いっそのこと、日本橋界隈に土地を多く所有するデベロッパーがあるので、そこが日本橋を魅力的な街にするためにお金を出せば良いと思います。それならば大賛成です。
遠い過去は愛せるのに近い過去は愛せない、きっと近い過去が遠い過去になる時に、愛されはじめるんだと思います。日本橋の上に架かる首都高も、よく見ると味があるようなないような。
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